Powered By Blogger

2020年12月24日木曜日

昭和49年のクリスマスイヴは新宿にいた




 まだ,アルタはない。たしかニコウという名前のビルが建っていた。

新宿はいまほどきれいな街ではなく。雑然とした間延びした街だった。でも上京したての田舎者には立派な大都会だ。

夕刻,ぼくと小森は国鉄新宿駅にむかっていた。どうして薄汚い男がふたりしてそこを歩いていたのかは忘れてしまった。年末にはふたり別々に故郷に帰ったはずだから,ますます設定が思い出せない。

その年,ぼくは寝台特急で帰省した。新幹線はその年の春には福岡につながっていた。東京から福岡までが7時間。乗り換えて,西鹿児島まではさらに5時間だった。寝台特急では22時間もかかったのだから,おもえば大変な長旅だ。

ふたりの貧乏学生が腹をすかせて新宿駅に到着しようとする頃。雪が舞い始めた。絵にはならないふたりだった。けれど,立ち止まって街を眺めるくらいには美しかった。